米投資会社がYouTubeチャンネルの買収事業を開始、査定で見られるのは長く見られる動画
- ハリウッドの映像資産を20年買い続けてきた米Content Partnersが、YouTubeチャンネルの買収事業を始めました。最初に買ったのは登録者580万人の長尺ドキュメンタリーで、買い手がどこを見ているかが分かります。
- チャンネルが買われる資産になったということは、動画の作り方が査定の対象になるということです。時事ネタ中心の企画は価値が落ちやすく、形式が決まったシリーズは残ると同社社長は見ています。
- 長尺のシリーズやドキュメンタリーで登録者を伸ばしているチャンネルにまず関係し、将来の売却や事業承継を考える個人運営者にも選択肢が増えます。

ハリウッドの映像資産を買ってきた会社が、YouTubeチャンネルを買い始めました
Content Partnersは米ロサンゼルスの投資会社で、2006年の設立から20年、映画やテレビの権利を買い集めてきました。
保有するのは800本を超える映画と3,000時間分のテレビ番組で、米ドラマ「CSI」のライブラリやRevolution Studiosの作品群が含まれます。
その会社が7月に立ち上げたYouTubeチャンネル買収事業が「Wonderloom Media」です。
最初に買ったのは、登録者580万人のチャンネル「Dr. Insanity」。
1本44〜55分のドキュメンタリーを出す長尺チャンネルです(Net Influencer)。
社長のジョン・マス氏は、この買い方を一文でまとめています。
「コンテンツは、どのメディアで再生されるかでは定義されなくなった」
同氏は2014年の入社で、それ以前は17年間ウィリアム・モリス・エージェンシー(米国の大手タレントエージェンシー)に在籍し、最後は企業開発・新規事業の担当役員でした。
映画やテレビの権利を買う側のトップが、YouTubeチャンネルを同じ物差しで語り始めたことになります。

買う側の基準は「5年後にもう一度見られるか」です
マス氏が、長く収益を生むコンテンツとそうでないものを分けると言うのは、繰り返し見られるかどうかです。
「今日つけても、5年後につけても、また見てしまう」類のものを基準にしています。
同氏は「ゴッドファーザー」や「ショーシャンクの帰還」を例に挙げました。
公開年に関係なく、目に入れば見てしまう作品です。
その基準でいくと、チキンウィングの辛さを段階的に上げるインタビュー番組「Hot Ones」は、ライブラリとして機能していると同氏は見ています。
数年前のゲスト回が、最新回と並んで再生を積み上げているからです。
「Dr. Insanity」も同じで、2〜3年前の動画に今も視聴が入っています。
マス氏は、テレビがYouTubeを見る主要なデバイスになったことを、プラットフォームの位置づけが変わった証拠として挙げます。
再生数ではNetflixを大きく上回るという見方です。
Netflixなどが広告つきの安いプランを足すほど、収益の仕組みはYouTubeが先に動かしてきた広告モデルに近づいていきます。
時事ネタは2日で値段が下がり、形式が決まったシリーズは残ります
繰り返し見られるかのテストに落ちるのは、ニュース性の高い題材や時事ネタです。
マス氏は、今日は価値があり、明日は減り、2日後にはさらに減る、という言い方をしています。
安定した形式を持つシリーズは違います。
同氏は「サウスパーク」や「セインフェルド」を挙げ、放送が終わってからも視聴者を保っていると述べました。
Content Partnersが払っているのは、この持続性です。
視聴者の見分けについても、同氏は具体例を出しています。
レストランのレビュー動画しか出していないチャンネルは、いつも好意的だと視聴者にすぐ見抜かれる、と娘の言葉を引きました。
案件を成立させるために組まれた構成の動画は、ライブラリとして残りにくいという読みです。
売り手は現金と引き換えに、制作の決定権を手放すことになります
売り手が同社に来る理由はいくつかあります。
相続の準備、事業や個人間の組み合わせの解消、ゆっくり貯まる資産から動きの速い投資に資金を移したい、といった理由です。
マス氏は典型的な売り手の状況を「現金は生むが換金しにくく、先の読めない資産を持っている」と説明しました。
選ぶのは、このまま収入を受け取り続けるか、一括で受け取って別の用途に振り向けるかです。
制作会社なら新しい企画に、個人なら市場での投資や不動産に向ける。
共通するのは資金の自由度で、違うのは受け取った後に何をするかだけです。
買収後にクリエイターが気にするのは、自主性です。
自分で決めてファンを作ってきた人が、買い手が制作やビジネスの判断に口を出す構造に入る。
マス氏は、業績が安定しているうちは口を出されないが、崩れると一気に口を出される構造だと話しています。
数字が落ちたときの対応まで含めて、買う側は見ているということです。
ハリウッドは権利を会社が持ち、YouTubeはクリエイターに残ります
映画やテレビの世界では、監督や脚本家、俳優が作ったコンテンツの権利はスタジオが持ちます。
マス氏によると、配信向けに作られた番組では、収益の分配を受け取る仕組み自体が減っています。
YouTubeはこの構造を逆にします。
クリエイターがコンテンツを持ち、プラットフォームで広げ、所有権を渡さずに広告収益を得る。
同氏は、一度仕事を離れたあとに自費で作ったシリーズを後からNetflixにライセンスした米コメディアンの例や、パイロット版を自費で作った米ドラマ「It's Always Sunny in Philadelphia」の制作陣を、その動きの先例として挙げました。
同氏の見立てでは、クリエイターの経済圏には2種類の人がいます。
持続するビジネスを作る100人に1人と、数字だけを追う多数派です。
視聴者はこの見分けを、ブランドが気づくより速くやる、と同氏は話しています。
自分のチャンネルにどう影響するか
買い手が付くチャンネルとそうでないチャンネルの差は、動画1本の企画の立て方に出ます。
売る予定がなくても、この物差しは自分の企画会議でそのまま使えます。
過去2〜3年の動画を、公開から時間が経っても再生が入り続けているかで並べてみる。
数字が動き続けている企画はシリーズ化の候補です。
止まっている企画は、時事ネタや話題性に寄っていたということになります。新しい企画は、ゲストや話題ではなく形式で思い出される形にしておく。
「Hot Ones」が辛いチキンという形式で残っているように、題材が古びても形式は残ります。
撮影の手順や冒頭の入り方を決めておくと、後から見返される動画になります。売却や事業承継を選択肢に入れるなら、金額より先に制作の判断を誰が持つかを書き出しておく。
買い手は業績が崩れたときに口を出すという前提で、残したい権限を決めておくと、交渉の途中で作り方まで変わらずに済みます。

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