音楽業界団体がyt-dlpをEUの海賊版監視リストに申請、開発者4人を名指し
- 音楽業界団体のIFPIが、YouTubeの動画を保存できる無料ツールyt-dlpを、EUの模倣品・海賊版監視リストに加えるよう申請しました。開発者4人がGitHubのアカウント名で名指しされ、AIで歌声を複製するアプリ2本も対象に挙がっています。
- リストに載っても削除や接続遮断が即決まる文書ではありませんが、無料ツールの開発者を個人名で挙げた点は重く、AI音声でカバー曲を作るアプリにも同じ物差しが向いています。
- YouTubeから動画や音源を保存するツールを使っている運営者と、AIでカバー曲や声の複製を作るチャンネルに関係します。自分の動画が無断で保存される側の運営者も、権利者の動き方として参考になります。

yt-dlpをEUの監視リストに、開発者4人を名指し
音楽業界団体のIFPI(国際レコード産業連盟)が、EUの模倣品・海賊版監視リスト(Counterfeit and Piracy Watch List)の意見募集に提出した文書で、YouTubeから動画を保存できる無料ツールyt-dlpを「重大な問題」と位置づけ、リストに加えるよう求めました。
リストはEUの執行機関である欧州委員会が毎年まとめているものです。
IFPIはyt-dlpを、Savefrom.netとY2mateの2サイトと並べて、配信音源を抜き取るサービスの一覧に載せるよう申請しています。
YT-DLPは音楽業界にとって重大な問題である。
YouTubeを含むライセンス済みの配信サービスから、音楽や音声・映像のコンテンツを、許諾なくダウンロードして恒久的に保存できるようにする、無料のオープンソースソフトを提供しているからだ
申請文書はプロジェクトの成り立ち、配信音源を抜き取る機能、権利放棄に近いUnlicenseというライセンスで公開されている点を説明しています。
オープンソースであること、開発者のコミュニティが大きいこと、配布が広がっていることが重なり、ツールを止めるのも取り除くのも難しい、というのがIFPIの見立てです。
原文はTorrentFreakにあります。

削除要求もブロック要求も入っていない申請
この申請には、削除の要求も、接続を遮断する措置の要求も、開発者への具体的な措置も含まれていません。
リストに載った時点で何かが止まる、という種類の文書ではありません。
EU域外のサービスを対象にした仕組みなので、日本のチャンネルが直接このリストに入る話でもありません。
ただ、YouTubeの動画を保存する行為を「技術的な保護手段の回避」と見る物差しがEUで通れば、同じ主張は他の国でも持ち出されます。
日本での扱いは原文に書かれていませんが、他人の音源や映像を切り抜いて使う企画を抱えているチャンネルは、この物差しの広がり方を見ておく価値があります。
IFPIは開発者がどの国にいるかには触れず、GitHubを「yt-dlpの公式な入手元」として挙げています。
GitHubは米マイクロソフトの傘下で米国にあり、リポジトリは米国に置かれていることになります。
yt-dlpや、その前身にあたるyoutube-dlが、監視リストや「模倣品・海賊版市場」の提出文書で対象として名指しされるのは初めてだと、TorrentFreakは書いています。
合法的な用途があることに申請が触れていない点も、同じ記事が指摘しています。
開発者の名前も書かれています。
創設者はGitHubユーザーのpukkandanで、2021年から2024年まで中心のメンテナーを務めたとされています。
現役の中心メンテナーとしてcoletdjnz、bashonly、Grub4Kの3人が挙がっています。
いずれもGitHub上で公開されているアカウント名です。
一度GitHubから消えたyoutube-dlの現在
前史があります。
2020年10月、米レコード協会(RIAA)は著作権侵害の削除申請(米国著作権法にもとづく手続き)で、当時人気のあったYouTubeダウンロードツールyoutube-dlをGitHubから削除させました。
RIAAは、ソフトがYouTubeの技術的な保護手段を回避していると主張しました。
数週間後、GitHubはリポジトリを復元し、同じような申し立てを受けた開発者を支える100万ドル(約1億6,000万円)の基金を設けています。
ドイツでは音楽業界が裁判で成果を上げました。
レーベル側が、youtube-dlの公式サイトを置いていたホスティング事業者Uberspaceを訴えて勝訴したのです。
2024年11月、ハンブルク高等裁判所は事業者側の控訴を退けました。
youtube-dlの開発は事実上止まり、後継のフォーク(他人のコードを引き継いで作る派生版)のyt-dlpが引き継いでいます。
旧公式サイトの.orgドメインを開くとyt-dlpへ転送されます。
yt-dlpは2021年に始まり、GitHubで1万6,000以上のフォークと19万以上のスター(利用者が付けるお気に入り登録)を集め、サイト内で32番目にスターの多いプロジェクトになりました。
AIで歌声を複製するアプリ2本が同時に指定
IFPIの申請は、従来型のツールだけを見ているわけではありません。
AI音楽アプリのRythmixとMusiQ AIが、新しい種類の抜き取りツールとして挙がっています。
YouTubeのリンクを貼り付けると、その音源を、複製したアーティストの声でAIのカバー曲に変換する仕組みです。
どちらもAppleのApp Storeで入手でき、RythmixはGoogle Playでも公開され、すでに500万回以上ダウンロードされています。
日本での提供状況は原文に書かれていません。
音源を無断で転載されるのと違い、複製されるのは声そのものです。
元の音源を消しても、同じ声で作られた生成物は外に残ります。
yt-dlpの動作は「回避」に当たるのか
IFPIは、配信音源を抜き取るサイトが、国際条約とEU法で保護された技術的保護手段を回避していると主張しています。
根拠に挙げるのがドイツのyoutube-dl判決で、そこではサイトを置くホスティング事業者が回避をほう助したとして責任を認められました。
ただ、申請文書自体はyt-dlpの動作を「ウェブページとプレーヤーのデータを解析し、プラットフォーム固有の再生用エンドポイントとやり取りする」と説明しています。
回避がどう当てはまるのかは説明されていません。
欧州委員会は今後、提出された意見を検討し、2027年版のリストにどの対象を入れるかを決めます。
yt-dlpやAIアプリが入るかどうかは、まだ分かっていません。
TorrentFreakはyt-dlpのメンテナーとGitHubにコメントを求めたものの、公開までに返答はなかったとしています。
自分のチャンネルにどう影響するか
自分の動画の控えの取り方と、AI音声の使い方。
この2つが今回の申請の影響範囲に入ります。
ツールがすぐ止まる話ではないので、今日中に何かを変える必要はありません。
自分の動画の控えは、複数の経路で残しておくと、ツールの先行きに振り回されません。
撮影データの原本を手元に置き、アップロード済みの分はYouTube Studioからもダウンロードできるので、その範囲を一度確かめておくのが現実的です。AIのカバー曲や声の複製を使う企画は、権利の線引きを企画の段階で決めておくと、公開後に動画ごと消す判断を迫られません。
誰の声を、どの音源から、どこまで使うか。
企業案件で受けるなら、契約にAI音声の扱いを書き足しておく余地があります。自分の動画が無断で保存・再アップロードされていたときの動きも、一度通しておくといいです。
今回の申請で、権利者側が相手の名前を具体的に挙げて動く姿勢が見えました。
著作権侵害の申し立ての手順を確認しておくと、いざというときに迷いません。

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